« 続・マラウイ徒然1  元旦にマラウイ政治の歴史をふりかえる(小林由季) | Main | マラウィ食糧支援募金の募集 »

2006.01.16

北朝鮮の人道・開発援助の特異性(1)(杉原ひろみ)

(前回のコラム「米国NGOの対北朝鮮人道支援」)

2005年4月より日本の大学院博士課程に籍を置いているが、事実上、娘が幼稚園に通い出した9月から、ワシントンDCの自宅をベースに北朝鮮の人道・開発援助について研究を始めた。そして、毎月最低1本のコラムを執筆し、ウェブサイト上に発表して研究記録を蓄積するノルマを自分に課しているが、早くも行き詰まっている。何がそんなに難しくさせているのだろうか。その理由は、対北朝鮮援助が世界にもまれな特殊な環境下で実施されていることだ。そのため、既存の分析手法がなかなか使えない。具体的に、特異な点は4つ挙げられる。今回のコラムでは、そのうち2点挙げて説明する。

第一に、北朝鮮は主体思想に基づく共産主義体制であるため、人の移動や活動の自由が全くなく、これが援助の実施体制を大きく歪めている。これまで私が研究、または実務で携わってきた国々も大なり小なりそうした制約はあったが、ここまで厳しくなく、開発援助をいかに効果的かつ効率的に行うか考えることができた。しかし北朝鮮ではそうした考えや発想が通用しない。そもそも北朝鮮に出入りをする人たちは、(1)韓国人(貿易・文化・政治・産業・社会協力関係者、および観光客)、(2)国際人道コミュニティ、(3)北朝鮮の自由貿易地帯における経済開発を狙うビジネス関係者、の3つのグループに限られる(スミス、2000)。

国際人道コミュニティ、中でもNGOに注目した場合、リード(2004)やスミス(2002)によるとかなり活動範囲が限られている。欧州の場合、いくつかのNGOがEU・北朝鮮間の外交交渉の一環として常駐プログラムを実施していた。アメリカの場合、NGOの多くは、援助物資の到着に合わせて、年に2~3回、各1~2週間北朝鮮に滞在して業務を行うケースが多い。また、韓国の場合、韓国NGO側は北朝鮮支援をしたくても、韓国政府が韓国赤十字のチャンネルを使って、国際赤十字を通じた援助を行うよう要求し、自由な活動が許されなかった。金大中政権の「太陽政策」が実施された1998年初め以降、そうした政策は緩和され、韓国NGO代表が北朝鮮を訪問することが許されるようになったが、それでもまだ規制は厳しい。しかし、この状況も刻々と変わり、北朝鮮政府は豊作だったことを理由に、2005年末までにWFPや国際NGOを含む全ての国際人道援助関係者に対して撤退を命じた。現在もな調整中だが、再び国際社会から背を向けようとしており、先行きは全く見えない。(リンク

第二に、そのような政府の厳しいコントロールの結果、人道援助の実務家が多くのジレンマを抱えて煮詰まっている。ワインガートナー(2001)は、国際援助コミュニティの最大の問題点は、食糧援助から開発援助に移行しようとする時、北朝鮮政府の変化を拒む現体制が今日のグローバル経済とかみ合わないことであるとしている。食糧援助の場合、人命救助という使命があるが、開発援助の場合、北朝鮮政府の監視や統制が厳しく、プロジェクトを現地で実施しても、農民や労働者と自由に会話したり、反応を聞いたりすることが一切許されない。その結果、開発ワーカーはフラストレーションが溜まり、現体制の崩壊こそが人民救出につながるという過激な議論に行き着いてしまいがちである。

また、スミス(1999)(2002)は、三つの問題点を指摘している。一つに、北朝鮮国内では行動の自由が許されず、人々への自由なインタビューも許されていないため、信頼できるデータが入手できず、プログラムの効果を適正に査定・モニタリング・評価できない。その結果、第二点として、援助が本当に弱者に届いているかもわからず、また、裨益者もしくは潜在的な裨益グループに直接アクセスできないことである。最後に、国連や国際NGOは、北朝鮮の政治や経済、文化社会に関する知識がほとんどない中、仕事をしなければならない点である。北朝鮮は1995年の危機が起こる以前、赤十字やAmerican Friends Service Committee (1917年、キリスト教徒の一派であるクエーカー教徒によって設立された平和問題や人権環境を扱う米国NGO)など、一部の使節団を除いて、NGOと仕事をすることはなかった。国連機関も1980年代からUNDPが北朝鮮と関係を持ってきたが、駐在事務所を開設し、本格的に人道援助を始めたのは、北朝鮮による国際アピールが行われて以降である。それゆえ、双方とも知識が乏しく、理解し信頼を深めるに至らないのである。

次回コラムでは、4つの特異性の残り2つを挙げることにする。

(バックナンバー

参考文献
●Edward P. Reed. 2004. “Unlikely Partners: Humanitarian Aid Agencies and North Korea”. Ahn Choong-yong, Nicholas Eberstadt, Lee Young-sun (eds.). A New international Engagement Framework for North Korea? – Contending Perspectives. Washington DC: The Korea Economic Institute of America.
●Hazel Smith. 1999. “’Opening up’ by default: North Korea, the humanitarian community and the crisis”. The Pacific Review Vol.12 No.3: Routledge.
●Hazel Smith. 2000. “Bad, Mad, Sad or Rational Actor? Why the ‘Securitization’ Paradigm makes for Poor Policy Analysis of North Korea”. International Affairs Vol.76 Issue 3.
●Hazel Smith. 2002. “Overcoming Humanitarian Dilemmas in the DPRK (North Korea)”. Special Report 90. United States Institute of Peace.
●Erich Weingartner. 2001. “NGO Contributions to DPRK Development: Issues for Canada and the International Community”. North Pacific Papers 7: University of British Columbia.

|

« 続・マラウイ徒然1  元旦にマラウイ政治の歴史をふりかえる(小林由季) | Main | マラウィ食糧支援募金の募集 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/22191/8119834

Listed below are links to weblogs that reference 北朝鮮の人道・開発援助の特異性(1)(杉原ひろみ):

« 続・マラウイ徒然1  元旦にマラウイ政治の歴史をふりかえる(小林由季) | Main | マラウィ食糧支援募金の募集 »