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2006年11月

2006年11月27日 (月)

開発援助の側面から見た人道援助(杉原ひろみ)

前回の関連コラム「米国NGOが実施した米朝二国間の人道援助

そもそも「人道援助」と「開発援助」は何がどう違うのか。英国の大学院で開発学を学び、開発援助の側面から実務や研究に就いてきた私には、実は「人道援助」には馴染みが薄かった。それゆえ、米国政府の対北朝鮮援助を研究するようになって初めて、「人道援助」とは何かを考えるようになったと言っても過言ではない。私の知る人道援助研究は、難民や人権問題を扱う国際政治・国際法の研究者や、緊急援助活動を行う実務家が研究論文を発表するケースが多い。そして事例研究として、スーダン、ソマリア、エリトリア、リベリア、コソボ、アフガニスタン、カンボジアなどが取り上げられている。人道援助研究では、これまで開発援助関連の英語文献しか読んで来なかった私にとって、知らない言い回しや専門用語が多く、論文を読むことはかなり苦痛だった。

他方、日本国内で「平和構築」という言葉をよく耳にするようになった。米国の対北朝鮮人道支援について研究にするようになって以来、ずっと平和構築と北朝鮮で何か接点はないのだろうかと考えてきた。「地球に乾杯!NGO」の2006年2月6日付コラムの「北朝鮮の人道・開発援助の特異性(2)」で述べたように、北朝鮮の特異性として、これまでの他国の援助と比較して、緊急援助、食糧支援で問題となった事柄が一度に、しかも極端な形で現れている。そして、対北朝鮮援助は国際政治の重要問題と理解されている半面、国際政治で主流の「安全保障化のパラダイム(Securitization Paradigm)」では北朝鮮の人道政策分析ができない。

北朝鮮では1995年に起きた水害のため、西側諸国を中心に「緊急救援活動」が行われていたが、自然災害がなくなっても慢性的な食糧や医薬品等の不足が続いたため、一部の対北朝鮮支援は緊急援助から開発援助へシフトしていった。そうした中、現場で支援を行う関係者は、人道か開発かといったジレンマに悩まされるようになった経緯がある。北朝鮮のような「脆弱国家」に対する緊急援助から持続的開発への援助に移行を考えるヒントが「平和構築」の一連の議論に隠されていないかと考えたのである。

私は、国レベルで考える安全保障などマクロな国際政治分野からだけでは片付けられない国内・地域固有の問題が多く、そこを紐解き、解決していかないかぎり、「複雑な政治的危機」(Complex Political Emergencies)は解決できないのではないかと考える。そうした考え方は、開発、中でも農村開発の基本であり、それを応用した援助手法が主流になってきている。しかし、国際政治や国際法研究をざっと読み解くと、そうした視点から書かれたものが皆無と言ってもいい。そんなとき、開発援助の視点から研究をしているデイビッド・ヒューム(David Hulme)らが書いた論文が目に留まったのである。彼らは紛争解決・平和構築研究と開発政策研究の両者の分野を見事に橋渡ししていた。

デイビッド・ヒュームは、1990年代初頭にマイケル・エドワーズ等と「政府とNGOの関係」について研究していた英国マンチェスター大学教授である。その後、1997年から2年間、英国リサーチ・研修NGO「INTRAC」のジョナサン・グッドハンド(Jonathan Goodhand)等と、DFID(英国国際開発省)などの予算で、平和構築と、そこでのNGOの役割について研究し、ワーキングペーパーを12本、DFID向けに執筆している。また、一部が論文としてThird World Quarterly(1999年2月号)という開発分野で有名な学術誌に特集で掲載された。それ以降、開発分野において「複雑な政治的危機」(Complex Political Emergencies)という用語とその概念が定着したと言える。同時期に、デンマーク国際学研究所(CDR)において、ジョアキム・グンデル(Joakim Gundel)が文献調査を実施し、ワーキングペーパーにおいて人道援助の潮流を詳しく書いている。

DFIDへ提出されたワーキングペーパーを読むと、ヒュームとグッドハンドは「紛争の原因分析をする際、国際・国レベルの分析ではなく、コミュニティ・レベルの分析を試みる。その理由として、紛争は各々、異なる力関係、構造、アクター、信仰、不平不満などを背景にしている。そして、喜怒哀楽などの感情や、知性・理性など、コミュニティが持つ心が紛争と密接に結びついている。」としている。私はその考えに共感し、私の米国の対北朝鮮人道援助研究の基本姿勢がようやく見つかったような気になった。

参考文献:
●Goodhand, J. and Hulme, D. (1997) ‘NGOs and Peace Building in Complex Political Emergencies: an Introduction’, Peace Building and Complex Political Emergencies Working Papers No1, IDPM, University of Manchester.
●Hulme, D. and Goodhand, J. (2000) ‘NGOs and Peace Building in Complex Political Emergencies: Final Report to the Department for International Development’, Peace Building and Complex Political Emergencies Working Papers No12, IDPM, University of Manchester.
●Goodhand, J. and Hulme, D. (1999) ‘From Wars to Complex Political Emergencies: Understanding Conflict and Peace Building in the New World Disorder”, Third World Quarterly Vol20, No1, pp13-26.
●Gundel, J. (1999) ‘Humanitarian Assistance: Breaking the Waves of Complex Political Emergencies – A Literature Survey’, CDR Working Paper, Centre for Development Research.

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